ブログ VOICE~心のとびら

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2014年04月03日

人生の軸 ①

 春爛漫。今年も桜の季節を迎えた。4月に入り、ちょっと一息つける時間ができた。振り返ってみると、昨年からずっと走って来た。この3ヶ月は、特に濃い時間が続いた。同時に複数の事柄を形にする作業の連続だった。今、既に大きな山を幾つか越えた感じがある。

                                                         

その中の一つ、Hさんの人生の転換期に関わらせていただいた事は、私の人生にとって貴重な経験と大切な引き出しをいただく事に繋がった。

彼女とは大学院の時からのお付き合いである。同じ門下の同級生。といっても、私は30代の初めに学生に戻り、彼女は私よりも8歳年下である。声種は私と同じメゾ・ソプラノ。当時、私は発声のコントロールが不安定でコンプレックスを抱え、常に自分の本当のフォームとコントロールの仕方を探していた。心の奥では、それが見つからないと自分の人生も定まらないと思っている自分がいた。発声のコントロールが習得できたら、肩の力を抜いて、伸び伸びと自分らしく、まっすぐ前を向いて生きていける!と確信している自分がいた。だから、その頃の自分の歌と心の表面は、メッキ状態と自覚していた。私はいつの頃からか無意識のところで、人生の軸を呼吸法・発声法で捉えていた。

反対に学生の頃の彼女は、自然で伸びやかにバランス良く歌っていた。イイ声だった。私達は年齢の差は大きかったけれど、良いお友達付き合いをし、舞台の仕事も一緒にした。

大学院を出てからはそれぞれの道を進み、自然と疎遠になった。私の呼吸法と発声法を探す旅は続き、30代後半の留学時代でやっと答えを得る事ができた。それも2年の留学期間のうち、日本に帰国する1ヶ月前である。これで、帰国しても歌を辞めないで済むと、安堵したのを記憶している。帰国して、やっと掴んだコントロールを身体に染み込ませ、自由に使いこなせるようになったのは、50代になってから。途中の40代は、プライベートとお仕事の両方で色々な事が重なり、回り道の連続だった。何と時間のかかった事か。でもそのお陰で今はたくさんの引き出しができて、大分、生徒さんの悩みの意味を受け止める事ができるようになったと思う。全て必然というが正にその通りと、ありがたさと共にしみじみ思う。

5年前に人生の大きなリセットがあり、その後ふと思い立ち、Hさんに電話をした。ブランクはすぐに縮まり、お付き合いは再開した。そして彼女の苦難の10年間を知った。あんなにバランス良くイイ声で伸びやかに歌っていたのが、どうしちゃったの? 私は信じられなかった。何があったの? 本人も理由は解らないと。だんだんと発声のバランスが崩れ、歌う事が苦しくなってしまったそうだ。歌の世界の人間模様に身を置く事に、違和感を感じる事が多くなったそうだ。体調を崩す事も多くなったと。

病院で検査をしたが、原因が判らない。原因を探すための様々な勉強もしたけれど、大きな変化は得られなかった。それでも指導機関での仕事は続けながら、できる範囲でのコンサートにも出演したが、とうとう自分は歌い手としての才能、器がないのでは、と諦めと折り合いを付ける方向に向かって行ったそうだ。そんな時の再会だった。   

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